職場でアライを増やすには? D&I推進担当者が取り組むべきアライシップ醸成策
職場でアライを増やすには? D&I推進担当者が取り組むべきアライシップ醸成策
はじめに
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進は、現代の企業にとって不可欠な取り組みとなっています。しかし、「何から始めれば良いのか分からない」「一部の担当者やマイノリティだけの問題だと捉えられている」といった課題に直面されている方も多いのではないでしょうか。D&Iを組織全体で推進し、「自分ごと」として捉えてもらうためには、特定の属性を持つ方々をサポートする「アライ(Ally)」を社内に増やすことが非常に重要です。
本記事では、D&I推進担当者の方が職場でアライを醸成するために取り組むべき具体的なステップやポイントについて解説します。
アライシップとは何か、なぜ重要なのか?
アライ(Ally)とは
アライ(Ally)とは、「同盟者」「味方」「支援者」という意味を持つ言葉です。D&Iの文脈においては、自身は多数派や特権を持つ立場にありながら、マイノリティの権利や尊厳のために積極的に連帯し、支援する人々を指します。これは特定の属性に限定されるものではなく、例えば男性が女性を支援する、異性愛者がLGBTQ+を支援する、健常者が障害者を支援するなど、様々な関係性で成立します。アライは単に「理解している」だけでなく、その理解を行動に移すことが求められます。
なぜアライシップがD&I推進に重要なのか
D&I推進は、単に多様な属性を持つ人材を採用するだけでなく、それぞれの違いが尊重され、すべての従業員が能力を最大限に発揮できるインクルーシブな環境を築くことを目指します。しかし、この環境づくりをマイノリティ当事者やD&I推進担当者だけが担うのは非常に困難です。
ここでアライの存在が重要になります。多数派や特権を持つ立場にあるアライが積極的に関わることで、以下のようなメリットが生まれます。
- 心理的安全性の向上: アライがいることで、マイノリティ当事者は孤立感を感じにくくなり、安心して自分の意見や懸念を表明できるようになります。
- 組織文化の変革: アライの行動は、周囲の従業員にも影響を与え、組織全体に多様性を尊重する文化が浸透するきっかけとなります。
- 「自分ごと」化の促進: 多数派の従業員がアライとして行動することで、D&Iが特定の人々のためだけでなく、組織全体の課題であるという認識が広まります。
- 潜在的な課題の発見と解決: アライが積極的に多様な声に耳を傾けることで、見過ごされがちなハラスメントや差別、インクルージョンを阻害する要因に気づきやすくなります。
このように、アライシップの醸成は、D&Iを組織に根付かせるための強力な推進力となるのです。
アライシップを醸成するための具体的なステップ
D&I推進担当者として、社内にアライを増やし、その活動を支援するためには、体系的なアプローチが必要です。以下のステップを参考にしてください。
ステップ1:アライシップの概念の定義と啓発
まずは、「アライシップとは何か」を社内に広く啓発し、共通認識を持つことが重要です。
- 啓発資料の作成: アライシップの定義、なぜ重要なのか、具体的な行動例(後述)などをまとめた資料を作成し、社内ポータルやイントラネットに掲載します。
- 全従業員向け説明会の実施: 研修や説明会の場で、アライシップの概念と意義について説明します。経営層や管理職からのメッセージを含めると、より浸透しやすくなります。
- 具体的な行動例の提示: 抽象的な説明だけでなく、「会議で発言しにくい人の意見に耳を傾け、発言を促す」「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づき、それを正す努力をする」「差別的な言動を見聞きしたら、適切に声を上げる」など、職場で実践できる具体的な行動例を複数提示します。
ステップ2:多様性に関する学びの機会提供
アライとして効果的に行動するためには、様々な属性に関する正しい知識と理解が必要です。
- 多様なテーマの研修: アンコンシャス・バイアス研修、異文化理解研修に加え、LGBTQ+、障害、育児・介護、外国人材など、具体的な属性に関する理解を深める研修やセミナーを実施します。
- 当事者の声を聞く機会: マイノリティ当事者を招いた講演会やパネルディスカッションは、参加者の共感を生み、アライになる動機付けに繋がります。
- 学習リソースの提供: 関連書籍の紹介、外部セミナーの情報提供、オンライン学習プラットフォームの活用などを通じて、従業員が自律的に学べる環境を整備します。
ステップ3:対話と交流を促進する場づくり
異なる背景を持つ従業員同士が自然に交流し、互いを理解する機会を設けることは、アライシップ醸成の基盤となります。
- ERGs/BRGsの支援: 共通の関心や属性を持つ従業員グループ(ERGs: Employee Resource Groups / BRGs: Business Resource Groups)の活動を会社として支援します。これらのグループには当事者だけでなく、アライも積極的に参加することを推奨します。
- クロスメンタリング: 異なる部署や属性のペアによるメンタリングプログラムは、相互理解を深め、アライシップを育む有効な手段です。
- カジュアルな交流機会: ランチミーティングやコーヒーブレイクなど、形式ばらない場で多様な従業員が交流できる機会を設けます。
ステップ4:アライとしての行動を後押しする仕組みづくり
アライシップを行動に移した従業員を評価・支援する仕組みを検討します。
- 経営層・管理職による模範: 経営層や管理職自身が率先してアライとしての姿勢を示し、多様な意見に耳を傾ける姿勢を見せることは、組織全体の行動を促します。
- アライシップを評価項目に: 人事評価の際に、多様性尊重やインクルーシブな行動(アライシップを含む)を評価項目の一部として加えることを検討します。ただし、これは単なる点数稼ぎにならないよう、行動変容を促すフィードバックとセットで行うことが重要です。
- 社内表彰・事例共有: アライとして貢献した従業員やチームを表彰したり、その取り組みを社内で共有したりすることで、アライシップの重要性を再確認し、他の従業員の参考とします。
実践上のポイントと注意点
- アライは「支援者」であるという認識: アライシップは、当事者に代わって声高に主張することではありません。当事者の声に耳を傾け、彼らが安全に発言できる環境を作り、必要に応じてサポートする役割であることを明確に伝えます。
- 完璧を目指さない: 誰でも無意識の偏見を持っている可能性があります。完璧なアライを目指すのではなく、「学び続け、より良いアライになるために努力する」という姿勢が重要であることを伝えます。
- 継続的な取り組み: アライシップの醸成は、一度研修を実施すれば終わりではありません。定期的な情報提供、学習機会の提供、対話の場の設定など、継続的に働きかけることが重要です。
- 強制しない: アライになることは個人の意志に基づいた行動です。強制するのではなく、アライシップの重要性を伝え、行動したいと思う従業員を支援するスタンスが望ましいです。
まとめ
D&I推進を実効性のあるものにするためには、推進担当者だけでなく、全ての従業員が「自分ごと」として関わることが不可欠です。そのための重要な鍵となるのが、アライシップの醸成です。
アライシップは、多様なバックグラウンドを持つ同僚を理解し、尊重し、必要に応じてサポートする自発的な行動です。本記事でご紹介したステップ(概念の啓発、学びの機会提供、対話の促進、行動を後押しする仕組みづくり)を通じて、社内にアライを増やし、D&Iが自然と推進される組織文化を育んでいくことができます。
アライシップの醸成は一朝一夕にできるものではありません。しかし、D&I担当者として一歩ずつ、着実にこれらの取り組みを進めることで、よりインクルーシブで、すべての従業員が活躍できる、真に強い組織を築くことができるでしょう。