D&I推進を成功させる鍵:マネージャー層の理解を深める方法
D&I推進を成功させる鍵:マネージャー層の理解を深める方法
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進は、企業の成長と持続可能性に不可欠な取り組みとなっています。しかし、人事やD&I推進担当者が中心となって旗振り役を務めていても、「なかなか現場に浸透しない」「マネージャー層の意識が変わらない」といった課題に直面することも少なくありません。
特に、日々の業務に追われるマネージャーにとって、D&Iは「よく分からない」「自分には関係ない」と感じられたり、どのように取り組めば良いか戸惑ったりすることも多いのが実情です。D&I推進を組織全体で成功させるためには、現場を率いるマネージャー層の理解と主体的な関わりが不可欠と言えるでしょう。
この記事では、D&I推進担当者がマネージャー層の理解を深め、推進への協力を得るための実践的なアプローチや、効果的な研修・コミュニケーションのポイントについて解説します。
なぜマネージャーのD&I理解が重要なのか
D&Iは単なる人事施策ではなく、チームのパフォーマンス向上、イノベーションの促進、従業員エンゲージメントの向上、さらには優秀な人材の獲得・定着に直結する経営戦略です。そして、これらの成果は、従業員と日々接し、チームの文化を作る現場のマネージャーの行動に大きく左右されます。
もしマネージャーがD&Iの重要性を理解していなかったり、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に基づいてメンバーを評価・育成したりすれば、多様な個性が持つ力が十分に発揮されず、かえってチームのパフォーマンスを低下させる可能性があります。逆に、マネージャーがD&Iを理解し、インクルーシブな環境を意識的に作り出すことで、メンバーは安心して自分らしく働くことができ、多様な視点から生まれたアイデアが活かされやすくなります。
このように、マネージャーはD&I推進の「要」と言える存在です。彼らの理解と協力なしには、組織全体のD&I推進は形骸化してしまうリスクがあるため、重点的にアプローチする必要があります。
マネージャーのD&I理解を阻む要因
マネージャー層がD&Iに主体的に関われない背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 重要性の認識不足: D&Iが自身のマネジメント業務やチームの成果にどう繋がるのか、具体的なイメージが湧いていない。
- 知識・スキル不足: D&Iに関する基本的な知識や、多様なメンバーをインクルーシブにマネジメントするための具体的な方法(公平なフィードバック、異なる価値観への配慮など)が分からない。
- 時間的制約: 日々の目標達成やメンバー育成に追われ、D&Iを学ぶ時間や実践する余裕がないと感じている。
- 自身のバイアスへの無自覚: 自身の経験や価値観に基づいた無意識の偏見が、多様なメンバーとの関わり方に影響を与えていることに気づいていない。
- 「難しい」「面倒」といった抵抗感: D&Iに取り組むことで、かえってトラブルが増えたり、気を使ったりする必要があると感じてしまい、前向きになれない。
これらの要因を踏まえ、マネージャー一人ひとりの状況や課題に合わせたアプローチを検討することが重要です。
マネージャー層の理解を深めるための具体的なアプローチ
マネージャー層のD&I理解と関与を促すためには、多角的なアプローチが有効です。
1. 「Why」を明確に伝えるコミュニケーション
まず、なぜ会社としてD&Iを推進するのか、そしてそれがマネージャー自身やチームにとってどのようなメリットがあるのかを明確に伝えることが不可欠です。
- 経営戦略との紐づけ: 会社のビジョンや経営目標達成のためにD&Iがどのように貢献するのかを具体的に説明します。
- マネージャーにとってのメリット: チームの生産性向上、メンバーのエンゲージメント向上、採用力の強化、ハラスメントリスクの低減など、マネージャーの日常業務における具体的なメリットを強調します。
- 成功事例の共有: 社内外のD&I成功事例、特にマネージャーの取り組みが成果に繋がった事例を紹介し、「自分にもできるかもしれない」というイメージを持ってもらえるようにします。
単に「D&Iは重要です」と伝えるだけでなく、彼らの関心事や課題に寄り添ったメッセージを工夫しましょう。
2. 実践的でインタラクティブな研修・ワークショップ
D&Iに関する知識提供だけでなく、マネージャーが実際に「どうすれば良いか」を学べる実践的な内容を取り入れます。
- アンコンシャス・バイアスへの気づき: 自身の無意識の偏見に気づくためのワークショップやディスカッションを行います。一方的な講義よりも、参加者自身が考える機会を設けることが重要です。
- ケーススタディ: 実際に職場で起こりうるD&Iに関連する様々なケースについて、グループで解決策を話し合ったり、ロールプレイングを行ったりします。これにより、具体的な対応方法や多様な視点への理解を深めます。
- インクルーシブなコミュニケーションスキル: 異なるバックグラウンドを持つメンバーとの効果的なコミュニケーション方法、フィードバックの方法、会議での発言を促すテクニックなどを実践的に学びます。
- 質問と対話の機会: 講師や推進担当者に対して自由に質問できる時間や、参加者同士で日頃の悩みを共有・相談できる場を設けます。
研修形式は、一方的な座学よりも、参加型のワークショップ形式が効果的です。短時間で終わるセッションを複数回実施したり、オンラインツールを活用したりするなど、忙しいマネージャーでも参加しやすいよう工夫します。
3. 継続的なサポートと情報提供
一度の研修で終わらせず、継続的に情報を提供し、実践をサポートする体制を整えます。
- 定期的な情報共有: D&Iに関する最新情報、社内の取り組み状況、参考になる記事などをニュースレターや社内ポータルで定期的に発信します。
- 相談窓口の設置: D&Iに関する疑問や悩み、個別具体的なケースへの対応方法などについて、気軽に相談できる窓口を設置します。推進担当者だけでなく、経験豊富なマネージャーがメンターとなる仕組みも有効です。
- ツールやリソースの提供: 多様なメンバーとの面談で使えるチェックリスト、ハラスメント予防に関するガイドライン、多様性に関する簡易的なQ&A集など、日々の業務で活用できる具体的なツールを提供します。
- 成功事例の共有会: D&Iの取り組みで成果を出したマネージャーに、その経験や学びを共有してもらう場を設けます。ピアラーニングは、マネージャーにとって最も響く情報の一つとなることがあります。
4. 経営層からのコミットメントとメッセージ
経営層がD&Iの重要性を認識し、マネージャー層に対する期待やサポートのメッセージを明確に発信することは、彼らのモチベーションを高める上で非常に重要です。全社集会やマネージャー会議などで、経営層から直接、D&I推進におけるマネージャーの役割について語ってもらう機会を設けることを検討しましょう。
企業事例に学ぶ:マネージャー理解を深めるための取り組み
事例:IT企業A社
A社では、マネージャーの「D&Iは人事の仕事」という意識が課題でした。そこで、以下の施策を実施しました。
- 「D&Iマネージャー研修」の実施: アンコンシャス・バイアス、インクルーシブ・リーダーシップに特化した半日間の研修を実施。ケーススタディ中心で、参加者同士が活発に意見交換できるように設計しました。
- 「インクルージョン・サーベイ」の導入: 半年ごとにチームのインクルージョン度合いを測るサーベイを実施。結果をマネージャーにフィードバックし、チーム改善に活かしてもらいました。
- 「D&I推進コミュニティ」の発足: D&Iに関心のあるマネージャーや従業員が自由に集まり、情報交換や勉強会を行うコミュニティを立ち上げました。推進担当者も参加し、現場の声を拾い上げました。
これらの取り組みにより、マネージャーの「自分ごと」意識が高まり、チーム内で積極的にD&Iに関する話題が出るようになったほか、サーベイの結果も継続的に改善傾向が見られました。
実践上のポイント
- 一方的な「教育」ではなく「対話」を意識する: マネージャーに「教える」というスタンスではなく、共に学び、考え、実践していくパートナーとしての関係性を築くことを目指します。
- 「D&Iは特別なこと」ではなく「マネジメントの一部」と位置づける: D&Iを特別な活動として切り離すのではなく、目標設定、評価、育成、コミュニケーションといった日常のマネジメント業務に不可欠な要素として伝えます。
- 成功事例を共有し、ポジティブな変化に焦点を当てる: 失敗を恐れず、小さな成功を称賛し、その取り組みがチームや組織にどのような良い変化をもたらしたのかを具体的に共有します。
- 個別の状況に配慮する: マネージャー一人ひとりのD&Iに関する理解度や経験は異なります。一律のアプローチだけでなく、個別相談やより深い学びの機会を提供するなど、柔軟な対応を検討します。
まとめ
D&I推進において、現場のキーパーソンであるマネージャー層の理解と主体的な関わりを引き出すことは、非常に重要なステップです。推進担当者としては、彼らがD&Iの重要性を自分事として捉え、日々のマネジメントの中で実践できるよう、丁寧かつ継続的なコミュニケーション、実践的な学びの機会提供、そして手厚いサポートを心がけることが求められます。
この記事でご紹介したアプローチが、皆様のD&I推進活動の一助となれば幸いです。マネージャーと共に、多様な個性が輝くインクルーシブな職場環境を築いていきましょう。