D&I推進研修の企画・実施:担当者が押さえるべきポイント
D&I推進研修、何から始めるべきか?担当者が直面する課題
組織におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進は、持続的な成長に不可欠な経営戦略として認識されています。その取り組みの一つとして、従業員の意識や知識を深めるための研修は非常に有効な手段です。しかし、D&I推進の経験が浅い担当者の方にとって、「どのような研修を企画すれば良いのか」「参加者の意識を高めるにはどうすれば良いのか」「実施後に効果をどう測るのか」といった疑問や課題に直面することは少なくありません。
本記事では、D&I推進研修を成功に導くための具体的な企画・実施ステップと、担当者が押さえるべき重要なポイントについて解説します。
D&I研修企画・実施における主な課題
D&I研修に取り組む際、担当者は以下のような課題に直面することが考えられます。
- 目的・目標が曖昧: なぜ研修を行うのか、研修を通じて参加者にどうなってほしいのかが不明確なまま進めてしまう。
- 対象者・内容の選定の難しさ: 全従業員向けが良いのか、管理職向けが良いのか、どのようなテーマが組織の現状に合っているのか判断に迷う。
- 参加者の意識のばらつき: D&Iへの関心度や知識レベルが異なる参加者全員に対して、効果的な研修を提供するのが難しい。
- 一方的な知識伝達になりがち: 理論や定義の説明に終始し、参加者の「自分ごと」として捉えてもらう機会が少ない。
- 効果測定の困難さ: 研修を実施したことで、従業員の意識や行動、組織文化にどのような変化があったのかを具体的に把握しにくい。
これらの課題を克服し、実りのあるD&I研修を実現するためには、計画的かつ戦略的なアプローチが必要です。
効果的なD&I推進研修を企画・実施するためのステップ
D&I推進研修を成功させるためには、以下のステップで進めることが推奨されます。
ステップ1:研修の目的とゴールを明確にする
まず、なぜD&I研修を行うのか、その根本的な目的を定義します。これは、組織全体のD&I戦略に基づいているべきです。「従業員の多様性に関する基本的な理解を深める」「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づき、行動を変容させる」「多様なバックグラウンドを持つ同僚との協働を促進する」など、具体的なゴールを設定します。ゴールが明確であれば、研修内容や形式、効果測定の方法も自ずと決まってきます。
ステップ2:対象者と内容を選定する
研修の目的とゴールに基づき、誰を対象とするか(全従業員、管理職、特定の部署など)、そしてどのような内容を扱うかを検討します。
- 対象者: 組織の課題や目的に応じて、対象者を絞ることも有効です。例えば、管理職向けには「多様な部下のマネジメント」「公正な評価」、全従業員向けには「D&Iの基礎知識」「ハラスメント予防」などが考えられます。
- 内容: テーマは多岐にわたります(ジェンダー、性的指向・性自認、障害、年齢、国籍、宗教、キャリア、経験など)。組織の現状や緊急度の高い課題に合わせて、優先順位をつけてテーマを選定します。
ステップ3:実施形式と方法を検討する
研修の目的、対象者、内容、そして予算や期間を考慮して、最適な実施形式を選択します。
- 形式: 対面研修、オンライン研修、eラーニング、ワークショップ、講演会などがあります。参加者間のインタラクションを重視するなら対面やオンラインでのリアルタイム形式、多くの従業員に手軽に受講してもらいたいならeラーニングが適しているでしょう。
- 方法: 一方的な座学だけでなく、グループワーク、ロールプレイング、ディスカッション、事例研究などを取り入れることで、参加者の主体的な学びを促し、理解度を高めることができます。特に、アンコンシャス・バイアス研修などでは、参加者が内省し、気づきを得られるようなワークショップ形式が有効です。
ステップ4:効果的なコンテンツを作成・準備する
研修内容に基づき、教材や資料を作成します。
- 実践性の重視: 理論だけでなく、自社の事例や身近なケーススタディを多く取り入れることで、参加者が自分ごととして捉えやすくなります。
- 分かりやすい説明: 専門用語は避け、平易な言葉で説明することを心がけます。必要に応じて、図やグラフ、動画なども活用します。
- インタラクティブな要素: 質疑応答の時間、チャットでのコメント受付、オンラインツールを活用した投票やアンケートなど、参加者が積極的に関われる仕組みを取り入れます。
- 講師の選定: 社内外の専門家や、D&I推進に知見のあるファシリテーターに依頼することも検討します。社内講師の場合は、事前に十分なブリーフィングと練習を行うことが重要です。
ステップ5:研修を実施する
計画に基づき、研修を実施します。実施中は、参加者の反応をよく観察し、必要に応じて柔軟に対応します。オンライン形式の場合は、通信環境の確認やツールの操作サポートなどもスムーズに行えるよう準備しておきます。
ステップ6:効果測定とフィードバックを行う
研修の効果を測定し、今後の改善に繋げます。
- 測定方法: 研修直後のアンケート(満足度、理解度)、研修から一定期間経過後の行動変容に関するアンケート、研修テーマに関連するハラスメント相談件数の変化、従業員意識調査(エンゲージメントサーベイ)での関連項目の変化など、複数の視点から効果を測定します。
- フィードバック: 参加者からのフィードバックを収集し、研修内容や運営方法の改善に役立てます。また、研修効果を経営層や関係部署に報告することも重要です。
事例に学ぶ:研修実施のヒント
- 大手IT企業A社: 全従業員向けにアンコンシャス・バイアスに関するeラーニングを実施後、管理職向けに対面でのワークショップを実施。eラーニングで基礎知識をインプットし、ワークショップで実践的なケーススタディやグループ討議を行うことで、理解と行動変容の両方を促しました。
- 製造業B社: 多様なバックグラウンドを持つ外国人従業員が増加したことを受け、管理職向けに異文化理解と多文化チームマネジメントに関する研修を導入。外部講師を招き、文化の違いから生じるコミュニケーションの課題や解決策について具体的な事例を交えながら解説し、参加者からの質問に丁寧に答える時間を設けることで、実践的な学びの機会を提供しました。
D&I研修を成功させるための実践上のポイント
- 経営層のコミットメントを得る: D&I推進が経営戦略の一環であることを明確にし、経営層自らが研修の重要性を発信する、あるいは研修に参加するといった姿勢を示すことで、従業員の受講意識を高めることができます。
- 組織文化との整合性: 研修内容は、組織の現状の文化や従業員の意識レベルに合ったものであることが重要です。高すぎる目標や、現状と乖離した内容では、かえって反発や形だけの参加を招く可能性があります。
- 一度きりで終わらせない: D&I研修は、一度実施すれば終わりではありません。継続的にテーマを変えたり、対象者を広げたりしながら、繰り返し実施することが重要です。また、研修だけでなく、日常的なコミュニケーションや人事制度との連携も不可欠です。
- 参加者の心理的安全性を確保する: D&Iのようなセンシティブなテーマを扱う研修では、参加者が安心して自身の意見を述べたり、疑問点を質問したりできる環境づくりが非常に重要です。ファシリテーターは、参加者の発言を尊重し、建設的な対話が生まれるように配慮する必要があります。
まとめ:D&I推進研修を組織変革の力に
D&I推進研修は、従業員の意識変革を促し、多様な人材が活躍できるインクルーシブな組織文化を醸成するための重要な施策です。目的設定から効果測定まで、計画的にステップを踏むことで、より効果的な研修を実施することができます。
D&I推進担当者の皆様には、本記事で紹介した企画・実施のポイントを参考に、ぜひ自社の状況に合った研修を企画・実行し、組織全体のD&I推進を加速させていくことを期待しております。研修を通じて得られた学びや気づきが、日々の業務やコミュニケーションに活かされ、全ての従業員にとってより働きがいのある環境が実現されることを願っています。