D&I推進成功のカギは部署連携!具体的な進め方と事例
D&I推進を「自分ごと」に:部署横断連携の重要性
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進は、人事部門だけで完結するものではありません。組織文化の変革、従業員の意識向上、制度やルールの見直し、そして実際の業務プロセスへの落とし込みなど、多岐にわたる取り組みが必要です。これらの活動を効果的に進めるためには、経営層はもちろんのこと、企画部門、広報部門、各事業部門、現場のマネージャー層など、組織内のあらゆる部署との連携が不可欠です。
しかし、実際のD&I推進業務においては、「他部署になかなか協力してもらえない」「D&Iの重要性が部署によって理解されていない」「連携の進め方が分からない」といった課題に直面することも少なくありません。人事担当者が孤軍奮闘するのではなく、いかにして部署横断での連携を構築し、組織全体を巻き込んでいくかが、D&I推進を成功させる鍵となります。
本記事では、D&I推進における部署連携の重要性を改めて確認し、担当者が直面しがちな課題を踏まえながら、具体的な連携の進め方や、連携を成功させるためのポイント、そして実際の企業事例をご紹介します。
D&I推進における部署連携の課題
D&I推進において部署横断の連携を目指す際に、担当者が直面しやすい具体的な課題にはどのようなものがあるでしょうか。
- D&Iの重要性や目的の認識不足: 他部署のメンバーにとって、D&Iが自部署の業務や目標にどのように関連するのかが明確でない場合があります。「なぜ今、D&Iに取り組む必要があるのか」「それが自部署にどんなメリットがあるのか」が伝わらないと、協力のモチベーションは生まれにくいでしょう。
- 業務負荷への懸念: 多くの部署は日々の業務で手一杯です。D&I推進の協力依頼が、新たな業務負荷として捉えられ、「忙しいから対応できない」という反応につながることがあります。
- 専門性や関心領域の違い: D&Iに関する知識や関心は、部署や担当者によって異なります。人事部門が持つD&Iの専門知識や問題意識が、他部署には共有されにくい場合があります。
- 連携体制や役割の不明確さ: 誰が、いつ、どのような形で連携し、何を分担するのかが曖昧だと、責任の所在が不明確になったり、連携が自然消滅したりするリスクがあります。
- 効果測定や成果の可視化の難しさ: D&I推進の成果が数値として見えにくい、あるいは成果が出るまでに時間がかかる場合、他部署から見て「協力する価値があるのか」と疑問視される可能性があります。
これらの課題を乗り越え、部署横断での連携を円滑に進めるための具体的なアプローチを見ていきましょう。
部署横断での連携を成功させるためのアプローチ
D&I推進において、各部署の協力と参画を得るためには、戦略的なアプローチが必要です。以下に、効果的な進め方をいくつかご紹介します。
1. 共通の目的とゴールの設定・共有
まず、なぜ組織全体でD&Iに取り組む必要があるのか、その共通の目的と目指す状態(ゴール)を明確に設定し、全社的に共有することが極めて重要です。経営層からの力強いメッセージとともに、D&Iが単なる社会貢献活動ではなく、企業価値向上、イノベーション促進、優秀な人材確保・定着といったビジネス戦略と結びついていることを具体的に示します。
各部署に対しては、全社のゴールを踏まえつつ、「D&I推進を通じて自部署はどのように貢献できるのか」「協力することで自部署にはどのようなメリットがあるのか(例:従業員エンゲージメント向上、採用競争力の強化、多様な顧客ニーズへの対応力向上)」を具体的に伝えることが効果的です。
2. 各部署の視点を取り入れた施策立案
人事部門だけで施策を立案するのではなく、企画段階から関係部署の代表者を巻き込むことで、各部署の現場の実情に即した、より効果的な施策を検討できます。例えば、商品開発部門であれば「多様な顧客ニーズを捉えるための商品・サービス企画」、マーケティング部門であれば「多様な顧客層に向けたメッセージ発信」、製造部門であれば「多様な働き方を実現する現場のオペレーション改善」など、各部署ならではの視点や専門性を活かせる施策を共に考えるのです。
これにより、「やらされ感」を軽減し、施策に対する当事者意識を高めることができます。ワークショップや合同会議などを定期的に開催し、意見交換やアイデア出しの場を設けることも有効です。
3. 明確な役割分担と連携プロセスの設計
連携をスムーズに進めるためには、各部署の役割と責任範囲、そして連携する上での具体的なプロセスを明確に定める必要があります。誰がどのような情報を提供し、いつまでに、どのような形でフィードバックを行うのか、意思決定はどのように行うのか、といったルールを事前に共有します。
プロジェクトチームを組成する際は、単にメンバーを集めるだけでなく、チーム内での役割(リーダー、サブリーダー、担当など)を明確にし、定期的な進捗報告や情報共有の場を設けることが重要です。ツールを活用した情報の一元化なども検討します。
4. 効果測定と成果の共有による継続的な巻き込み
D&I推進の取り組みが各部署の協力によってどのように進展しているか、どのような成果が出始めているかを定期的に測定し、全社に共有することも重要です。アンケート結果、エンゲージメントスコアの変化、多様な人材の活躍事例など、具体的なデータや定性的なフィードバックを示すことで、協力体制を維持・強化することができます。
小さな成功事例であっても積極的に取り上げ、関わった部署や担当者の貢献を称賛することで、次なる協力へのモチベーションにつなげます。
部署連携の成功事例
実際の企業では、どのように部署横断でのD&I推進を進めているのでしょうか。具体的な事例をいくつかご紹介します。
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事例1:大手メーカーA社 A社では、以前は人事部主導でD&I研修などを実施していましたが、組織全体の変化には限界を感じていました。そこで、D&I推進室を設置し、各事業部や企画部門から兼務メンバーを選出する形で推進体制を強化しました。 この体制のもと、例えば、営業部門と連携して「顧客の多様なニーズに対応するための営業手法に関する研修」を共同企画・実施したり、技術開発部門と連携して「多様なユーザー層を想定した製品デザインガイドライン」を策定したりしました。また、広報部門と連携し、社内外へのD&Iに関する情報発信を強化した結果、従業員のD&Iに対する関心が高まり、自部署での取り組みを提案する動きも出てきました。部署ごとにD&I推進目標を設定し、人事評価の要素に組み込むことで、より主体的な関与を促しています。
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事例2:IT企業B社 B社では、急成長に伴い従業員の多様性が増したものの、部署間のコミュニケーション不足や文化の違いが課題となっていました。D&I推進にあたり、人事だけでなく、広報、総務、IT部門、そして各開発チームの代表者からなる「D&I推進タスクフォース」を立ち上げました。 このタスクフォースでは、人事部門が全体の方向性や研修を提供しつつ、広報は社内SNSでの情報発信やイベント企画、総務はオフィス環境の改善(例:多目的トイレの設置、祈祷スペースの検討)、IT部門は多様な働き方を支援するツールの導入・運用、各開発チームはチーム内での心理的安全性の向上施策などをそれぞれ分担して推進しました。定期的にタスクフォース会議を開催し、部署間の情報共有や課題解決を迅速に行うことで、全社的な取り組みとしてD&Iが浸透していきました。
これらの事例からわかるように、成功の鍵は、全社的な体制を構築し、各部署がそれぞれの専門性や強みを活かしつつ、共通の目的に向かって役割を分担し、連携を深めることにあります。
実践上のポイントと注意点
部署横断での連携を円滑に進めるためには、いくつかの実践的なポイントがあります。
- 経営層のコミットメントを得る: 経営層がD&I推進の重要性を理解し、積極的に関与する姿勢を示すことが、他部署の協力を得る上で最も強力な後ろ盾となります。
- 「強制」ではなく「共感」を促す: 一方的に協力や指示を求めるのではなく、D&I推進が組織や各部署、そして従業員一人ひとりにとってなぜ重要なのか、共感を呼ぶ形で丁寧に説明し、理解を深めてもらう努力が必要です。
- 小さく始めて成功体験を積む: 最初から大規模な連携体制を築こうとせず、まずは特定の部署と特定のテーマで小さく連携を始め、成功体験を積むことが有効です。その成功事例を共有することで、他の部署への展開がしやすくなります。
- 定期的なコミュニケーションを欠かさない: 連携体制を構築しても、定期的な情報交換や進捗確認の場がないと、連携が形骸化してしまいます。定例ミーティングやオンラインツールを活用し、密なコミュニケーションを心がけましょう。
- 他部署の「貢献」を具体的に評価・感謝する: 協力してくれた部署や担当者の貢献を、社内報での紹介、表彰制度、上長へのフィードバックなどを通じて具体的に評価し、感謝の意を伝えることで、今後の協力への意欲を高めることができます。
まとめ
D&I推進を単なる人事部門の取り組みに終わらせず、組織全体の文化として根付かせるためには、部署横断での連携が不可欠です。はじめは課題に直面することもあるかもしれませんが、共通の目的を明確にし、各部署の視点を取り入れながら役割を分担し、丁寧なコミュニケーションを重ねることで、協力体制は必ず構築できます。
本記事でご紹介した具体的なアプローチや事例が、読者の皆様が自社で部署間の連携を推進し、D&Iをより効果的に進めていくための一助となれば幸いです。部署間の壁を越えた連携が、企業のさらなる成長と、すべての従業員にとってより良い職場環境の実現につながることを願っています。