D&I推進で他部署の協力が得られない…具体的な巻き込み方とアプローチ
はじめに
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進は、人事部門だけで完結するものではありません。組織全体の文化を変革し、多様な人材が活躍できる環境を作るためには、様々な部署との連携が不可欠です。しかし、D&I推進担当者の皆様の中には、「他部署に協力をお願いしても、なかなか動いてもらえない」「関心を持ってもらえない」といった課題に直面している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
他部署には、それぞれが担う業務や目標があり、D&I推進が必ずしも最優先事項ではない場合もあります。本記事では、D&I推進担当者が他部署の協力を効果的に得るための具体的な巻き込み方と実践的なアプローチについて解説します。
なぜ他部署の協力が必要なのか?
D&I推進の取り組みは多岐にわたります。例えば、
- 採用活動: 採用基準の見直し、多様な母集団形成(採用部門との連携)
- 働き方改革: フレキシブルな勤務制度導入、リモートワーク環境整備(総務部門、IT部門との連携)
- 従業員育成: 多様なニーズに応じた研修プログラム開発(研修部門、各部署マネージャーとの連携)
- 製品・サービス開発: ユーザーの多様性への配慮(企画部門、開発部門との連携)
- 職場環境整備: 誰もが利用しやすい設備の導入(総務部門、施設部門との連携)
このように、多くの施策は人事部門だけでは実行できません。関連する部署の理解と協力があって初めて、D&I推進は組織全体に浸透し、実質的な成果につながります。
他部署が協力しにくい理由を理解する
協力が得られない背景には、いくつかの要因が考えられます。
- D&Iに対する理解不足: D&Iの重要性や自部署への関連性を十分に認識していない。
- 業務負荷: 日常業務に追われており、新たな取り組みに割く時間やリソースがない。
- 優先順位の低さ: 自部署の目標達成に直結しないと感じている。
- 取り組み方への懸念: 具体的に何をすれば良いか分からない、あるいは失敗を恐れている。
- メリットの不明確さ: 協力することで自部署にどのようなメリットがあるのかが見えない。
これらの理由を理解することは、効果的なアプローチを考える上で重要です。
具体的な巻き込み方と実践的なアプローチ
他部署の協力を得るためには、一方的な「お願い」ではなく、相手の立場に立った戦略的なアプローチが必要です。
1. 相手部署の立場・関心を理解する
まず、協力を求めたい部署がどのような目標を持ち、どのような課題を抱えているのかを把握しましょう。彼らの日々の業務、KPI、チームの状況などを理解することで、D&I推進がどのように彼らの活動に貢献できるかを見出すヒントが得られます。
- 実践例: 協力を求めたい部署のマネージャーや担当者と一対一で話す機会を設ける。彼らの業務内容や関心事について積極的に質問する。
2. D&I推進が相手部署にもたらすメリットを具体的に伝える
D&I推進の重要性を一般論として語るだけでなく、協力することで相手部署にとってどのような具体的なメリットがあるのかを明確に伝えましょう。
- 営業部門への提案例: 「多様な顧客ニーズに対応できるようになり、新たな市場開拓につながる」「チーム内の多様性が創造性を高め、提案力が向上する」
- 開発部門への提案例: 「多様な視点が製品開発に活かされ、より幅広いユーザーに受け入れられるサービスが生まれる」「心理的安全性が高まり、活発な議論からイノベーションが生まれやすくなる」
- 実践例: 提案資料に、D&I推進によって得られる可能性のある具体的な成果(生産性向上率、離職率低下、エンゲージメントスコア向上など、関連性のあるデータがあれば提示)を盛り込む。
3. 「共同プロジェクト」として提案する
一方的に協力を依頼するのではなく、共に課題を解決する「共同プロジェクト」として提案することで、当事者意識を持ってもらいやすくなります。
- 実践例: 「〇〇部署の皆さんと一緒に、△△に関する課題をD&Iの視点から解決していきたいと考えています。ぜひ、貴部署の専門知識を活かして、このプロジェクトにご参加いただけませんか?」のように、共に何かを創り上げる姿勢を示す。
4. 小さく始める、まずは理解者を作る
大規模な協力が難しい場合、まずは小さなステップから協力を得ることを目指しましょう。また、部署内にD&Iに関心を持つ個人がいれば、その方を「アライ」として巻き込み、内部からの働きかけを促すことも有効です。
- 実践例: 特定の部署のメンバー数名に、D&Iに関するワークショップや意見交換会への参加を打診する。まずは少人数での意見交換から始め、信頼関係を構築する。
5. 経営層からのサポートを取り付ける
経営層がD&I推進の重要性を理解し、各部署に協力を促すメッセージを発信することは、非常に強力な後押しとなります。
- 実践例: 経営会議などでD&I推進の進捗や他部署連携の必要性について報告し、協力体制構築へのコミットメントを得る。社内報や全体会議で、経営層からD&I推進への期待と各部署への協力要請を発信してもらう。
6. 成功事例やデータを提示して納得感を高める
他部署との連携によるD&I推進の成功事例や、データに基づいた効果を示すことで、協力を検討する上での納得感を高めることができます。自社の他の部署での成功事例があれば最も効果的ですが、難しい場合は他社事例や一般的な調査データでも構いません。
- 実践例: 「〇〇部署では、△△の取り組みによってエンゲージメントが〇%向上しました」「業界全体の調査では、多様性の高いチームは生産性が〇%高いというデータがあります」といった具体的な事実を提示する。
7. コミュニケーションの頻度と質を上げる
一度の依頼で終わらせず、定期的に情報共有や進捗報告を行うなど、コミュニケーションの頻度を増やしましょう。また、形式的な報告だけでなく、対面やオンラインでの打ち合わせを通じて、ざっくばらんに意見交換できる関係性を築くことが重要です。
- 実践例: 月に一度、協力をお願いしている部署の担当者とカジュアルなミーティングを設定する。D&Iに関する最新情報や他社の面白い取り組みなどを共有し、関心を持ってもらうきっかけを作る。
実践上のポイント
- 根気強く取り組む: D&I推進は一朝一夕に達成できるものではありません。他部署との連携も、すぐに期待通りの成果が出なくても、根気強く働きかけを続けることが重要です。
- 感謝の気持ちを伝える: 協力してくれた部署や担当者には、必ず感謝の気持ちを伝えましょう。彼らの貢献を認め、社内で共有することも、今後の協力関係を築く上で効果的です。
- 相手の負荷を考慮する: 協力を求める際は、相手部署の現在の業務負荷を考慮し、現実的な範囲で依頼内容を調整する柔軟性を持つことも大切です。
まとめ
D&I推進における他部署との連携は、多くの担当者様が直面する課題です。しかし、相手の立場を理解し、D&I推進が彼らの部署にもたらすメリットを具体的に伝え、「共同プロジェクト」として共に取り組む姿勢を示すことで、協力関係を構築することは可能です。
小さな一歩から始め、根気強くコミュニケーションを重ねることで、D&I推進は組織全体に広がり、より強固でインクルーシブな組織文化の醸成につながるはずです。ぜひ、本記事で紹介したアプローチを参考に、他部署との連携を進めてみてください。